副業に個人事業税はかかるのか——結論から言うと、かかるのは「法定70業種に該当する事業」で「事業所得が年290万円を超えた」場合だけです。副業で年間290万円超の事業所得を出す会社員は多くありませんが、いざ超えると8月に突然、都道府県から納税通知書が届きます。しかも所得税の確定申告書の上では見えにくい税金なので、資金繰りの想定外になりがちです。この記事では、290万円の事業主控除の仕組み、法定業種の判定、税額の試算、納付までの流れを整理します。なお個人事業税は都道府県税であり、業種判定は個別の事業実態で判断されます。最終的な判断は税理士など専門家・お住まいの都道府県税事務所への確認を推奨します。
副業に個人事業税がかかる3つの条件
個人事業税は、所得税や住民税とは別に都道府県が課す地方税です。副業をしている会社員が対象になるかどうかは、次の3条件をすべて満たすかで決まります。1つでも外れれば課税されません。
条件1:法定70業種に該当する事業であること
個人事業税は「すべての事業」にかかるわけではありません。地方税法で定められた法定70業種に限って課税されます。東京都主税局によれば、区分と税率は次のとおりです。
| 区分 | 業種数 | 税率 | 主な業種 |
|---|---|---|---|
| 第1種事業 | 37業種 | 5% | 物品販売業、請負業、広告業、デザイン業、コンサルタント業、不動産貸付業など |
| 第2種事業 | 3業種 | 4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
| 第3種事業 | 30業種 | 3〜5% | 医業、税理士業などの士業、理美容業(5%)、あん摩・マッサージ業、装蹄師業(3%) |
条件2:事業所得(+不動産所得)が290万円を超えること
法定業種に当てはまっても、年290万円の事業主控除があるため、所得がこの範囲に収まっていれば税額はゼロです。副業レベルで月20万円前後の所得なら年240万円ですから、多くの副業ワーカーは課税ラインの手前にいます。逆に言えば、副業が軌道に乗って月25万円(年300万円)を超えたあたりから、個人事業税が視野に入ってきます。
条件3:「事業」として行っていること
個人事業税の課税対象は事業所得と不動産所得です。副業の収入を雑所得として申告している場合、原則として個人事業税はかかりません。ただし「雑所得にしておけば事業税を回避できる」という話ではなく、帳簿の有無や継続性・営利性といった実態で区分は判断されます。区分の判定基準は副業の雑所得と事業所得の違い|判定基準と帳簿要件で整理しています。
290万円の事業主控除と税額の計算式
課税所得の計算式は所得税と違う
ここが最大の落とし穴です。個人事業税の課税標準は、確定申告書の「所得金額」そのままではありません。東京都主税局が示す計算式は次のとおりです。
(事業所得+不動産所得 + 所得税の事業専従者給与額 − 事業税の事業専従者給与額 + 青色申告特別控除額 − 各種控除額)× 税率 = 税額
注目すべきは「+ 青色申告特別控除額」の部分です。個人事業税には青色申告特別控除の適用がないため、65万円(または55万円・10万円)をいったん足し戻してから290万円を差し引きます。「青色申告後の所得が280万円だからセーフ」と思っていたら、65万円を戻すと345万円になり課税された、というのはよくあるパターンです。
【独自試算】副業所得別・個人事業税の早見表
第1種事業(税率5%)で青色申告特別控除65万円を適用しているケースを想定し、確定申告書上の事業所得ごとの個人事業税額を試算しました。実額は繰越損失などの各種控除や自治体の取り扱いで変わるため、あくまで目安として使ってください。
| 申告書上の事業所得 | 控除を戻した額 | 290万円控除後 | 税額(5%) |
|---|---|---|---|
| 150万円 | 215万円 | 0円 | 0円 |
| 220万円 | 285万円 | 0円 | 0円 |
| 230万円 | 295万円 | 5万円 | 2,500円 |
| 300万円 | 365万円 | 75万円 | 37,500円 |
| 400万円 | 465万円 | 175万円 | 87,500円 |
| 500万円 | 565万円 | 275万円 | 137,500円 |
この表から分かるのは、青色申告特別控除65万円を使っている人は、申告書上の事業所得が225万円あたりから課税圏に入るという点です。「290万円までは大丈夫」と単純に覚えていると、想定より50〜60万円早く納税通知書が届くことになります。
年の途中で開業した場合は月割になる
事業主控除290万円は、営業期間が1年に満たない場合月割になります。1か月なら242,000円、6か月なら1,450,000円といった具合です。副業を7月に開業して同じ年に大きく稼いだ場合、控除枠が半分しかないため、年換算の感覚で判断すると誤ります。開業日の考え方や届出については副業の開業届の書き方|職業欄・屋号の記入例と提出手順もあわせて確認してください。
法定業種の判定|副業で迷いやすい職種の課税・非課税
【判定表】副業でよくある職種はどちらか
副業として選ばれやすい職種について、一般的にどう扱われやすいかを整理しました。ただし判定は肩書きではなく事業の実態で行われるため、下表は出発点として使い、最終確認は都道府県税事務所で行ってください。
| 職種 | 一般的な扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| Webライター・文筆業 | 非課税になりやすい(法定業種に明記なし) | 請負契約で成果物を納品する形が強いと「請負業」と判断される余地がある |
| プログラマー・システムエンジニア | 非課税になりやすい | 受託開発の比重が高いと請負業と判断されるケースがある |
| Webデザイナー・イラストレーター | 課税されやすい(デザイン業=第1種5%) | 「IT系だから非課税」と思い込みやすい代表例 |
| 動画編集 | 請負業・デザイン業として課税されやすい | 制作受託の形が明確なほど課税寄りに判断されやすい |
| コンサルティング | 課税(コンサルタント業=第1種5%) | スポット相談中心でも事業の実態があれば対象 |
| せどり・物販 | 課税(物品販売業=第1種5%) | 仕入れて売る形は明確に該当する |
| 不動産の賃貸 | 課税(不動産貸付業=第1種5%) | 戸数・室数などの基準で事業的規模かを判定される |
| アフィリエイト・ブログ広告 | 広告業として課税されうる | 媒体運営の実態により判断が分かれる |
「ライター=非課税」を鵜呑みにしない
ネット上では「ライターやエンジニアは個人事業税がかからない」という説明が広く出回っています。これは法定70業種に文筆業やソフトウェア開発が明記されていないことに基づくもので、方向性としては正しいものの、請負契約で成果物を納品する働き方が中心だと「請負業」に分類され課税される可能性があります。開業届の職業欄にどう書いたかではなく、契約書・請求書に表れる実態で見られる点に注意してください。
判断に迷ったら開業前・申告前に確認する
グレーゾーンにいる自覚がある場合は、後から数年分をまとめて課されるより、事前に都道府県税事務所へ事業内容を説明して確認するほうが確実です。相談は無料で、契約書の写しなど事業内容が分かる資料を持参するとスムーズです。
申告と納付の流れ|確定申告をしていれば申告は不要
個人事業税だけの申告は原則不要
東京都主税局は「所得税の確定申告や住民税の申告をした方は個人の事業税の申告をする必要はありません」と明記しています。つまり、3月15日までに確定申告を済ませていれば、都道府県がそのデータをもとに税額を計算してくれます。副業ワーカーが個人事業税のためだけに別途書類を作る場面は、基本的にありません。
例外は年の途中で事業をやめた場合です。廃止した日から一定期間内に申告が必要になるため、副業を畳むときは副業をやめるときの廃業届の書き方|提出タイミングと注意点とあわせて、都道府県への届出も確認してください。
納期は8月と11月の年2回
納税通知書は8月頃に都道府県から届き、原則として8月末(第1期)と11月末(第2期)の年2回に分けて納付します。納付方法は口座振替、コンビニ、クレジットカード、スマホ決済アプリ、金融機関のペイジー対応ATMなどが利用できます(対応状況は自治体により異なります)。
資金繰りの観点では、3月に所得税、6月から住民税、8月・11月に個人事業税と負担が続く点を押さえておきましょう。副業所得が伸びた翌年は、想定より手取りが減ったように感じるのはこのためです。
納めた個人事業税は経費になる
個人事業税は租税公課として全額を必要経費に計上できます。所得税や住民税は経費にできませんが、個人事業税は事業に対して課される税なので扱いが違います。納付した年の経費として処理することで、翌年の所得税・住民税の負担が下がります。青色申告での帳簿処理は副業の青色申告のやり方|65万円控除の条件と記入例つき手順を参考にしてください。
副業で個人事業税を見落とす3つの失敗例
失敗1:青色申告特別控除を引いた後の金額で判断する
前述のとおり、個人事業税では青色申告特別控除を足し戻します。「申告書の所得は270万円だから対象外」と考えていたら、65万円を戻した335万円で判定され、45万円×5%=22,500円が課された——という誤解が最も多いパターンです。判定は青色申告特別控除を引く前の事業所得で行いましょう。
失敗2:所得税が少ない年でも事業税だけ発生する
所得税には基礎控除・社会保険料控除・扶養控除など多くの所得控除がありますが、個人事業税にはこれらの人的控除がありません。差し引けるのは事業主控除290万円と繰越損失などに限られます。そのため「所得税はほとんどかからなかったのに事業税の通知が来た」ということが起こります。会社員の副業では給与側で各種控除を使い切っているため、なおさら差が出やすくなります。
失敗3:赤字の年に申告せず繰越を捨てる
青色申告者が事業で損失を出した場合、個人事業税でも翌年以降3年間の繰越控除ができます。開業初年度に設備投資で赤字になったようなケースでは、翌年以降に所得が伸びたときの事業税を圧縮できます。ただし青色申告の承認と申告の継続が前提なので、赤字の年も申告を欠かさないことが条件です。
まとめ:副業の個人事業税は「業種×290万円」で決まる
- 課税されるのは法定70業種に該当し、事業所得が年290万円を超える場合のみ
- 判定では青色申告特別控除を足し戻すため、申告書上225万円前後から課税圏に入る
- ライター・エンジニアは非課税になりやすいが、デザイン業・請負業・物販・コンサルは課税されやすい
- 判定は肩書きではなく事業の実態。迷ったら都道府県税事務所に事前確認する
- 確定申告をしていれば個人事業税の申告は原則不要。納期は8月・11月の年2回
- 納めた個人事業税は租税公課として経費計上できる
- 年途中の開業は控除290万円が月割。廃業した年は別途申告が必要
副業の所得が年290万円に近づいてきたら、翌年8月に数万円の納税通知書が届く前提で資金を確保しておくと慌てずに済みます。まずは自分の事業が法定業種に当たるかどうかを、契約書と請求書の実態から確認するところから始めてみてください。
※本記事は2026年7月時点の一般的な情報提供を目的としたものです。個人事業税は都道府県税であり、業種の判定・税率・控除の取り扱いは自治体や事業の実態によって異なります。また税制は改正される場合があります。実際の判断・手続きにあたっては、税理士など専門家、またはお住まいの都道府県税事務所・所轄税務署への確認を推奨します。

