「副業で赤字が出たので、給与から天引きされた所得税を取り戻せるのでは?」——そう考えて損益通算を調べ始めた会社員の方は多いはずです。結論から言うと、副業の赤字を給与所得と損益通算できるかどうかは「その所得が事業所得か雑所得か」で天と地ほど変わります。本記事では、副業の赤字を給与所得と損益通算できる条件、できないケース、還付が受けられる仕組み、そして2022年の国税庁通達改正で焦点になった「帳簿の保存」という分岐点までを、初心者にもわかるよう具体的な数字とともに整理します。なお税務はYMYL領域のため、最終的な判断は税理士など専門家や所轄税務署への確認を推奨します。
そもそも損益通算とは?副業の赤字で税金が戻る仕組み
損益通算とは、ある所得で生じた赤字(損失)を、他の所得の黒字から差し引いて、課税対象となる所得全体を圧縮できる制度です。会社員の副業でこれが重要になるのは、給与からはすでに所得税が源泉徴収(天引き)されているためです。副業の赤字で給与所得をぶつけて圧縮できれば、払いすぎた税金が還付として戻ってくる可能性があります。
損益通算で還付が起きるイメージ
たとえば給与所得が400万円、副業(事業所得)が30万円の赤字だったとします。損益通算が使えれば課税対象は400万円−30万円=370万円に下がります。給与からは400万円ベースで源泉徴収されているため、差額に対応する所得税が後から戻ってくる、という流れです。これは「副業が黒字でないと意味がない」と思われがちな確定申告で、むしろ赤字のときに申告するメリットが生まれる典型例です。
損益通算できる所得は4種類だけ
国税庁の定めでは、損益通算の対象となる赤字は不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つに限られます(「ふ・じ・さん・じょう」と覚えると便利です)。配当所得・給与所得・一時所得・雑所得で損失が出ても、その赤字は他の所得から差し引けません。詳しくは国税庁のNo.2250 損益通算を確認してください。つまり副業の赤字が損益通算できるかどうかは、その副業が「事業所得」に当たるかどうかにほぼ集約されるのです。
副業の赤字を給与所得と損益通算できる条件
会社員の副業で損益通算を狙うなら、満たすべき条件は実質的に3つです。順番に見ていきましょう。
条件1:副業の所得区分が「事業所得」であること
最大の関門がこれです。副業の所得が事業所得に区分されれば、その赤字は給与所得と損益通算できます。逆に雑所得に区分されると、赤字は1円も給与所得から差し引けません。区分の判定基準や帳簿要件は副業の雑所得と事業所得の違い|判定基準と帳簿要件でさらに詳しく解説しています。国税庁のNo.1500 雑所得でも、雑所得の損失は他の所得と通算できないと明記されています。同じ「副業の赤字30万円」でも、区分ひとつで還付ゼロか数万円かが変わるわけです。
条件2:帳簿書類を記帳・保存していること
2022年10月の国税庁通達改正により、事業所得か雑所得かの判定では「帳簿書類の記帳・保存」が重要な目安とされました。いわゆる「副業300万円問題」で注目された論点です。改正後の通達では、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存があれば、収入金額が300万円以下でもおおむね事業所得に区分される、という整理になりました。反対に、帳簿を付けていない・保存していない場合は、原則として事業所得に区分されにくくなります。
条件3:社会通念上「事業」と言える実態があること
帳簿さえあれば必ず事業所得になるわけではない点に注意が必要です。判定の原則はあくまで「その活動が社会通念上、事業と称する程度で行われているか」です。営利性・継続性・反復性があり、生活の糧と言える程度の規模か、といった実態が問われます。たとえば収入がごくわずかで、何年も赤字が続き、客観的に事業と呼べる実態に乏しい場合は、帳簿があっても事業所得として認められない可能性があります。国税庁の通達でも、その収入が例年300万円以下で主たる収入(給与など)に対する割合が10%未満の場合などは、事業所得かどうかを個別に判断する余地があるとされています。「帳簿さえあれば自動で事業所得」と単純化せず、本業との比重や継続性も含めて総合的に見られる、と理解しておくことが大切です。
損益通算できないケースと注意点
条件を満たしているつもりでも、思わぬ落とし穴で損益通算が否認・制限されることがあります。会社員が特につまずきやすいポイントを挙げます。
雑所得(ポイ活・小遣い稼ぎ規模)は通算不可
フリマアプリの不用品売却、規模の小さいポイ活、たまの単発ライティングなど、事業と呼べる実態に乏しい副業は雑所得に区分されるのが一般的です。これらで経費がかさんで赤字になっても、その赤字は給与所得と通算できません。「赤字なら申告すれば戻る」と単純に考えると、対象外でぬか喜びになります。
「赤字をつくれば節税」という発想は危険
意図的に経費を膨らませて赤字を演出し、損益通算で還付を受けようとする手法は、税務調査で否認されるリスクが高い行為です。とりわけ、事業実態が乏しいのに毎年赤字を計上し続けるケースは、事業所得性そのものを疑われやすくなります。生活費や家事関連費を経費に紛れ込ませる行為も同様で、これは節税ではなく否認・追徴の入り口です。「国税庁の判定基準に照らして本当に事業と言えるか」を冷静に見極めましょう。
住宅ローン控除など他制度との兼ね合い
損益通算で所得を圧縮すると、住宅ローン控除の控除しきれない分が出たり、ふるさと納税の控除上限が下がったりと、他の制度に波及することがあります。一面だけ見て得をしたつもりが、全体では不利になるケースもあるため、トータルで試算することが大切です。とくに、損益通算で課税所得を下げた結果、各種所得控除を引いた後の課税所得がほぼゼロになると、もともと差し引けたはずの控除が「使い切れず消える」こともあります。所得圧縮はやみくもに大きければ得というわけではない、と理解しておきましょう。
給与所得の損失そのものは通算対象外
勘違いされやすいのですが、給与所得は損益通算「の対象となる赤字」を生み出す側ではありません。通勤や副業準備で出費がかさんでも、給与所得がマイナスになって他の所得を減らす、という使い方はできません。あくまで「事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得の赤字」を、給与所得を含む黒字にぶつけるという一方向の制度である点を押さえておきましょう。副業が事業所得に該当して初めて、給与の黒字に赤字をぶつけられるのです。
損益通算の独自試算|事業所得と雑所得で還付額はどう変わる?
同じ副業赤字でも区分次第で結果がどれだけ変わるか、当サイト独自に試算してみました。前提は「給与所得400万円・所得税率20%・副業経費がかさみ30万円の赤字」のモデルケースです(社会保険料控除等は簡略化、税率は説明用の概算)。
| 項目 | 事業所得に該当(帳簿あり) | 雑所得に該当(帳簿なし) |
|---|---|---|
| 副業の赤字 | −30万円 | −30万円 |
| 給与所得との損益通算 | 可能 | 不可 |
| 課税対象所得 | 370万円 | 400万円 |
| 圧縮された所得 | 30万円 | 0円 |
| 還付の目安(概算) | 約6万円戻る可能性 | 0円 |
※あくまで仕組みを理解するための概算で、実際の税額は他の控除・税率区分・復興特別所得税などで変わります。正確な金額は確定申告書の作成や税理士への相談で確認してください。この表が示すのは「赤字の金額が同じでも、帳簿の有無と区分が還付額を左右する」という一点です。事業所得を狙うなら、日々の帳簿づけこそが最大のリターン源になります。
よくある失敗・落とし穴5選
- 帳簿を付けずに事業所得で申告:後から否認され、雑所得に引き直されて還付が取り消されるリスク。
- 赤字なら申告不要と放置:損益通算できる事業所得の赤字は、申告しなければ還付も繰越も受けられません。
- 雑所得なのに損益通算を期待:そもそも対象外。区分の確認が先決です。
- 家事関連費を全額経費化:家事按分が必要な支出を全額計上すると否認対象に。
- 住民税側を確認しない:所得税は還付でも、住民税の申告漏れや普通徴収の選択を忘れるトラブルが起きがちです。
損益通算で還付を受けるための確定申告の流れ
副業の事業所得が赤字で損益通算を使う場合、年末調整だけでは完結せず、自分で確定申告が必要です。大まかな流れを押さえましょう。
ステップ1:帳簿をもとに収支内訳書・青色申告決算書を作成
1年間の売上と経費を帳簿から集計し、白色申告なら収支内訳書、青色申告なら青色申告決算書にまとめます。ここで赤字額(所得金額のマイナス)が確定します。青色申告を選んでいれば、損益通算してもなお残った赤字を翌年以降3年間繰り越せる「純損失の繰越控除」も使える可能性があります。青色申告の始め方や控除条件は副業の青色申告 やり方で確認できます。
ステップ2:確定申告書で給与所得とぶつける
確定申告書に給与所得(源泉徴収票の金額)と事業所得(赤字額)を記入すると、システム上で損益通算が行われ、課税所得が圧縮されます。給与から源泉徴収済みの所得税との差額が、還付額として算出されます。
ステップ3:期限内に提出し、住民税の取り扱いも確認
原則として申告期限内(例年2月中旬〜3月中旬)に提出します。会社に副業を知られたくない場合は、住民税の徴収方法(普通徴収か特別徴収か)の取り扱いも併せて確認しておくと安心です。確定申告の具体的な書き方は、当サイトの副業の確定申告 やり方を図解で解説も参考にしてください。
まとめ|副業の赤字を損益通算できるかは「区分」と「帳簿」で決まる
副業の赤字を給与所得と損益通算できるかどうかは、(1)その所得が事業所得に当たるか、(2)帳簿書類を記帳・保存しているか、(3)社会通念上の事業実態があるか、の3点でほぼ決まります。雑所得に区分される小規模な副業は、赤字でも給与所得とは通算できません。また「赤字を演出して節税」という発想は否認リスクが高く、誠実な帳簿づけと実態づくりこそが、結果として還付という形で返ってきます。区分の判定や還付額の試算は個別事情で大きく変わるため、迷ったら税理士など専門家や所轄税務署への確認を推奨します。本記事の数値・税率は2026年6月時点の制度を前提とした概算であり、最新情報は国税庁の公式案内で必ずご確認ください。
不動産による副業の損益通算をより詳しく知りたい方はサラリーマンの不動産副業の確定申告|経費・損益通算・減価償却の手順もあわせてご覧ください。

