「副業先でも社会保険に加入しなければいけないの?」「二か所で保険料を払うと手取りはどうなる?」――ダブルワークを始めた方が最初にぶつかる疑問のひとつが、社会保険の扱いです。
2026年10月には社会保険の適用拡大でパート・アルバイトへの加入条件が変わります。知らずにいると、保険料の二重負担や手続き漏れで思わぬ不利益を受けることも。この記事では、ダブルワークで社会保険に加入するケースと手続き、保険料の仕組みを具体的な数値例つきで解説します。
※本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づいています。制度は改正される場合があるため、詳細は日本年金機構・厚生労働省の公式情報や所管の年金事務所・社会保険労務士にご確認ください。
ダブルワークの社会保険、基本の仕組みをおさえる
「社会保険」とは何を指すか
ここでいう「社会保険」は、主に健康保険と厚生年金保険の2つを指します。会社員はこの2つを勤務先経由で加入しますが、副業先(ダブルワーク先)でも一定の条件を満たすと両方の事業所でそれぞれ加入義務が生じます。
- 健康保険:病気・ケガの医療費を補助
- 厚生年金保険:将来の年金を上乗せ
- 雇用保険:失業時の給付(原則:主たる事業所のみ。65歳以上はマルチジョブホルダー制度あり)
- 労災保険:各事業所ごとに自動適用
ダブルワークで「二か所加入」になる条件
副業先でも以下の要件をすべて満たすと、その会社でも社会保険への加入義務が発生します(短時間労働者に対する加入要件)。
| 要件 | 2026年9月まで | 2026年10月以降 |
|---|---|---|
| 企業規模 | 従業員51人以上 | 撤廃(全企業対象) |
| 週所定労働時間 | 20時間以上 | 20時間以上 |
| 賃金要件 | 月額8.8万円以上 | 撤廃(週20時間が基準) |
| 雇用見込み | 2ヶ月超 | 2ヶ月超 |
| 学生 | 対象外 | 対象外 |
出典:社会保険加入の要件|厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
2026年10月以降は企業規模要件・賃金要件が撤廃され、週20時間以上・2ヶ月超の雇用見込みがあれば原則すべての会社が対象になります。副業先がパートやアルバイト雇用でも、週20時間を超えると加入義務が生じる点を把握しておきましょう。
二か所で社会保険に加入したとき「やること」一覧
Step1:「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出する
同時に2か所以上の事業所で社会保険の加入要件を満たした場合、被保険者本人が事実発生から10日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出する必要があります。
提出先は、選択した「主たる事業所」を管轄する年金事務所(または健康保険組合)です。会社が代わりに手続きすることはなく、本人申請が原則となっています。
参考:複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構
- 提出書類:「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」(様式はねんきんネットまたは年金事務所窓口で入手)
- 提出期限:二か所目で加入条件を満たした日から10日以内
- 提出先:主たる事業所の管轄年金事務所
Step2:主たる事業所を1つ選ぶ
届出の中で「主たる事業所」を1つ選択します。これが保険証の発行元(健康保険組合または協会けんぽ)の管轄事務所になります。通常は収入が多い事業所(本業)を選択するケースがほとんどです。
Step3:保険料の按分通知を受け取る
主たる事業所を管轄する年金事務所が、2か所の報酬を合算して標準報酬月額を決定し、その割合に応じた保険料が各事業所に按分されて通知されます。
【独自試算】ダブルワークの保険料シミュレーション
保険料の計算ロジック
二か所勤務の場合、保険料は以下の流れで計算されます。
- A社報酬+B社報酬を合算して合算標準報酬月額を決定
- 合算額に保険料率をかけた総保険料を算出
- 各事業所の報酬額の比率に応じて按分(本人負担は各社から天引き)
具体的なシミュレーション例(2026年・東京都・協会けんぽ)
前提条件:本業A社の月収30万円、副業B社の月収10万円、合計40万円。協会けんぽ東京支部(2026年3月改定適用)の保険料率:健康保険9.98%(本人負担4.99%)、厚生年金18.30%(本人負担9.15%)を使用。
| 項目 | A社(本業) | B社(副業) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 月収 | 30万円 | 10万円 | 40万円 |
| 合算標準報酬月額 | 41万円(等級適用後) | ― | |
| 按分比率 | 75%(30/40) | 25%(10/40) | 100% |
| 健康保険本人負担 | 約15,318円 | 約5,106円 | 約20,424円 |
| 厚生年金本人負担 | 約28,193円 | 約9,398円 | 約37,591円 |
| 社会保険料合計(本人) | 約43,511円 | 約14,504円 | 約58,015円 |
ポイント:合算で標準報酬月額が決まるため、副業収入が増えると全体の保険料ランクが上がります。一方、保険料は二社合計で1人分として計算されるため「二重取り」にはなりません。ただし、副業先でも天引きが発生するため、手取りへの影響は事前に確認が必要です。
※上記は概算です。標準報酬月額の等級・保険料率は改定されることがあります。最新の保険料率は全国健康保険協会(協会けんぽ)公式サイトでご確認ください。
ダブルワークの雇用保険はどうなる?
原則:主たる事業所のみで加入
雇用保険は原則として主たる事業所(収入が多い・労働時間が長いほうの職場)1か所のみで加入します。副業先では別途雇用保険に加入することはできません(通常の会社員・アルバイトの場合)。
例外:65歳以上はマルチジョブホルダー制度が使える
65歳以上の労働者については、2022年1月から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が利用できます。2か所の勤務を合算して週20時間以上の場合、ハローワークへ申出することで雇用保険に加入できます。
- 対象:65歳以上
- 条件:2か所それぞれ週5〜20時間未満、合計20時間以上、各31日以上の雇用見込み
- 申出先:ハローワーク(本人申請・電子申請不可)
- 給付:失業時に高年齢求職者給付金(30日分または50日分)を一時金で受給
よくある失敗と対処法【要注意ポイント5選】
失敗1:「届出を出さなかった」→ 保険料の遡及請求が発生
二か所で加入要件を満たしているのに届出を出さないと、保険料の未払いが発生し、後から遡及して請求されるケースがあります。事実発生から10日以内という期限を必ず守りましょう。
失敗2:「副業先の賃金が月8.8万円未満だから大丈夫」→ 2026年10月以降は適用拡大で変わる
現行は月額8.8万円未満であれば短時間労働者の社会保険加入義務はありませんが、2026年10月以降は賃金要件が撤廃されます。週20時間以上であれば、時給が最低賃金水準でも加入対象になります。今のうちに副業先の労働時間を確認しておきましょう。
失敗3:「副業の収入が増えると本業の保険料が上がる」という誤解
二か所合算で標準報酬月額が決まるため、副業収入が増えると全体のランクが上がることがあります。ただし、あくまで「自分の保険料全体」が増えるのであって、本業だけの保険料が突然変わるわけではありません。社会保険料は事業所ごとに按分されます。
失敗4:「健康保険証が2枚発行される」という誤解
二か所で加入しても、健康保険証は主たる事業所の保険者から1枚のみ発行されます。副業先で別の健康保険証が出るわけではありません。
失敗5:「個人事業・フリーランスとの掛け持ちでも同じ」という誤解
個人事業主・フリーランスとして副業する場合は、国民健康保険・国民年金の扱いとなり、二か所勤務届は不要です。この記事で説明した「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」が必要なのは、副業先でも雇用されて給与をもらう場合に限ります。
「こういう人は二か所加入になりにくい」逆説チェック
以下に当てはまる人は、副業先で社会保険の加入義務が生じないケースが多いです(ただし2026年10月以降は要再確認)。
- 副業先の週所定労働時間が20時間未満(シフト制でバラつく場合は所定時間で判断)
- 副業先が50人以下の小規模事業所(2026年9月まで)
- 副業が業務委託・フリーランス契約(雇用契約ではない)
- 副業の雇用見込みが2か月以内(短期アルバイトなど)
ただし、2026年10月以降は企業規模・賃金要件が撤廃されるため、現在は非該当でも将来的に加入義務が生じる可能性があります。副業先との契約内容を定期的に見直すことをおすすめします。
確定申告との関係:社会保険料控除を忘れずに
二か所分の社会保険料は合算して控除できる
二か所の事業所から天引きされた社会保険料は、年末調整または確定申告で社会保険料控除として合算申告できます。副業がある場合は確定申告が必要になるケースも多いため、両社の源泉徴収票と保険料納付額を把握しておきましょう。
関連記事:副業の確定申告 やり方を図解で解説
住民税の普通徴収切り替えも忘れずに
確定申告で副業収入を申告する際、住民税の徴収方法を「自分で納付(普通徴収)」に選択することで、副業収入分の住民税が本業の給与から天引きされる「特別徴収」を回避できます。
扶養への影響も確認
ダブルワークで収入が増えると、配偶者や親族の扶養から外れる場合があります。130万円の壁についても事前に確認しておきましょう。
関連記事:副業で130万円超えたら扶養はどうなる?税金と社会保険の影響
まとめ:ダブルワーク社会保険の要点チェックリスト
- 副業先で週20時間以上・2ヶ月超の雇用見込みがある場合は社会保険加入義務が発生する
- 2026年10月以降は企業規模・賃金要件が撤廃され、適用範囲がさらに広がる
- 二か所で加入義務が生じたら「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を10日以内に提出
- 保険料は2か所の報酬を合算して標準報酬月額を決定し、比率で按分される
- 健康保険証は主たる事業所から1枚のみ発行される
- 雇用保険は原則1か所のみ(65歳以上はマルチジョブホルダー制度を活用)
- 確定申告で社会保険料控除を合算申告し、住民税は普通徴収を選択する
ダブルワークの社会保険は、知らないと手続き漏れや保険料の遡及請求につながるリスクがあります。特に2026年10月の適用拡大は影響が大きいため、副業先との契約内容を今一度確認しておくことをおすすめします。
制度の詳細や個別の状況については、管轄の年金事務所、または社会保険労務士など専門家への相談を強くおすすめします。
