副業で家族に給与を払うと経費になるのか——結論から言うと、可能ですが副業では要件を満たせないケースがほとんどです。家族への給与を経費にする「青色事業専従者給与」には、その年を通じて6か月を超える期間「専ら従事」しているという要件があり、本業を持つ人の副業を手伝う配偶者がこれを満たすのは簡単ではありません。この記事では、要件と届出手順、そして「自分は使えるのか」を判定するセルフチェックまで、2026年時点の制度に沿って整理します。
※本記事は2026年7月時点の国税庁の公表情報に基づく一般的な解説です。専従者給与の可否は個々の事情で判断が分かれるため、実際の適用にあたっては税理士など専門家や所轄の税務署に必ずご確認ください。
結論:家族への給与を経費にする方法は2つある
所得税法では、生計を一にする家族に払った給与は原則として必要経費になりません。身内へ給与を出す形で所得を分散し、税負担を不当に軽くすることを防ぐためです。ただし例外が2つ用意されています。
青色申告の「青色事業専従者給与」
青色申告をしている人が、届出をしたうえで生計を一にする家族に給与を払う場合、労務の対価として相当な金額の全額を必要経費に算入できます。上限額の定めはなく、仕事内容に見合っていれば経費にできるのが最大の利点です。
白色申告の「事業専従者控除」
白色申告でも、届出なしで一定額を経費とみなす制度があります。控除額は配偶者が最高86万円、15歳以上のその他の親族が最高50万円で、青色と違い金額が固定されています(事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った額が上限になる計算もあります)。
副業でつまずくのは「専ら従事」の壁
どちらの制度も、家族がその年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していることが前提です。「専ら」とは、その事業が主たる仕事である状態を指します。週末だけ手伝う、他社にフルタイム勤務しながら夜だけ作業する、といった関わり方では原則として認められません。副業規模の事業で専従者給与を使えるかどうかは、ここが最初の関門になります。
出典:国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
青色事業専従者給与の5つの要件【2026年版】
青色事業専従者給与を必要経費にするには、次の5つをすべて満たす必要があります。
| # | 要件 | 副業での難易度 |
|---|---|---|
| 1 | 青色申告の承認を受けている(開業届+青色申告承認申請書) | 低 |
| 2 | 生計を一にする配偶者その他の親族である | 低 |
| 3 | その年の12月31日時点で15歳以上である | 低 |
| 4 | その年を通じて6か月を超える期間、専ら従事している | 高 |
| 5 | 届出書を期限内に提出し、記載した範囲内の金額を支給している | 中 |
要件4「専ら従事」が最重要
他に職業がある人、学校に通っている学生は原則として専従者になれません。ただし、他の職業に従事する時間が短く、専従を妨げないと認められる場合など、例外が認められる余地はあります。判断が微妙なケースこそ、事前に税務署へ相談しておくのが安全です。
要件5「届出の期限」を落とすと1年ムダになる
「青色事業専従者給与に関する届出書」は、経費に算入しようとする年の3月15日までに提出する必要があります。その年の1月16日以後に開業した場合や、新たに専従者がいることになった場合は、その日から2か月以内が期限です。期限を過ぎると、実際に給与を払っていてもその年は経費にできません。
出典:国税庁「A1-10 青色事業専従者給与に関する届出手続」
「相当な金額」とは
給与額は労務の対価として相当と認められる範囲でなければなりません。実務では、同じ仕事を第三者に頼んだ場合の相場、従事時間、事業の規模や利益との釣り合いが見られます。作業実態が月10時間程度なのに月20万円といった支給は、否認されるリスクが高い水準です。
【独自】副業で使えるか5問セルフチェック採点表
編集部で要件を実務目線の設問に落とし込んだ簡易チェックです。各設問の点数を合計してください。
| 設問 | はい | いいえ |
|---|---|---|
| Q1. すでに青色申告の承認を受けている(または今年の期限内に申請できる) | 2点 | 0点 |
| Q2. 給与を払う相手は生計を一にする15歳以上の家族 | 2点 | 0点 |
| Q3. その家族は他社にフルタイム勤務しておらず、学生でもない | 3点 | 0点 |
| Q4. その家族は年間6か月を超えて、あなたの事業に主たる仕事として関わる | 3点 | 0点 |
| Q5. 作業時間・内容を記録でき、外注相場から見て説明できる給与額にする | 2点 | 0点 |
判定の見方
- 10〜12点:適用できる可能性が高い水準。届出期限を確認して手続きへ進みましょう。
- 5〜9点:グレーゾーン。特にQ3・Q4が0点なら「専ら従事」を満たさない可能性が高く、税務署への事前確認が必須です。
- 0〜4点:現状では見送りが現実的です。後述の代替策を検討してください。
会社員が副業として事業を営み、配偶者が別に正社員として働いている——という典型的なケースは、Q3・Q4がいずれも0点になり合計4点以下になりがちです。副業で専従者給与が使いにくいと言われる理由はここにあります。
届出書の書き方と提出手順
Step1:開業届と青色申告承認申請書を出す
前提として事業所得で青色申告している必要があります。まだの方は副業の開業届 出すべき?メリット・デメリットと副業の青色申告 やり方|65万円控除の条件と記入例つき手順を先に確認してください。
Step2:届出書の主な記入項目
「青色事業専従者給与に関する届出書」で迷いやすいのは、専従者ごとの明細欄です。次の要領で埋めます。
- 専従者の氏名・続柄・年齢・経験年数:続柄は「妻」「長男」など。経験年数は同種の仕事の経験を書きます。
- 仕事の内容・従事の程度:「受注管理および経理事務、週5日・1日5時間従事」のように、頻度と時間を具体的に書きます。ここが「専ら従事」の説明そのものになります。
- 給料の金額(支給期・金額):「毎月25日・月額80,000円」のように記載します。記載額は上限として機能するため、昇給を見込むなら余裕を持たせ、変更時は変更届出書を出します。
- 賞与:支給予定がなければ空欄で構いません。
- 昇給の基準:「業績及び従事の程度を勘案し年1回改定」など。
Step3:支給を始めたら源泉徴収と記録を忘れない
専従者給与も給与である以上、源泉徴収と年末調整の対象です。月額88,000円未満なら源泉徴収税額は0円になるため、事務負担を抑えたい人がこの水準に設定するケースは実務でよく見られます。作業日報や振込記録を残しておくと、実態を問われた際の裏づけになります。記録方法は副業の帳簿つけ方【エクセル初心者向け】も参考になります。
【独自試算】専従者給与が使えた場合の節税額
前提
副業の事業所得400万円(本業給与とは別)、配偶者は他に職業がなく事業に専ら従事、月8万円・年96万円を専従者給与として支給するケースで試算します(社会保険や住民税の細部は捨象した概算です)。
試算結果
| 項目 | 専従者給与なし | 専従者給与あり |
|---|---|---|
| 副業の所得 | 400万円 | 304万円 |
| 本人の税率(所得税+住民税の目安) | 約30% | 約30% |
| 96万円の所得移転による本人の税減少 | — | 約29万円 |
| 配偶者側の税負担(給与所得控除後ほぼゼロ) | — | 約0円 |
| 失う配偶者控除(38万円×約30%) | — | 約▲11万円 |
| 差引の効果 | — | 約18万円の減 |
落とし穴:配偶者控除・扶養控除は使えなくなる
専従者給与を1円でも支給すると、その家族について配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除は適用できなくなります。上の試算のように、支給額が小さいと控除を失うマイナスの方が大きくなり、逆効果になることもあります。年収の壁の考え方は副業の年収の壁178万円は会社員にどう影響する?もあわせて確認してください。
よくある失敗と、使えないときの代替策
失敗1:届出をせずに払い始めた
実態があっても届出がなければ経費になりません。3月15日という期限は、年の途中で気づいても取り返せない性質のものです。
失敗2:共働きの配偶者に「専従者給与」を出した
他社にフルタイム勤務している配偶者は、原則として専ら従事に該当しません。否認されると、その分が所得に戻され、過少申告加算税や延滞税の対象になり得ます。
失敗3:実態より高い給与を設定した
月数時間の軽作業に対して高額を支給する設計は、相当性を欠くとして一部否認されるおそれがあります。
代替策:外注費として支払う
生計を一にしない家族(独立生計の親や成人した子など)であれば、専従者給与の枠組みではなく通常の外注費・給与として経費にできる余地があります。また生計を一にする家族でも、そもそも家族に頼まず自分で処理し、外部の業者へ外注した費用を経費にする方が実態に合うことも多いはずです。何が経費になるかは副業の経費 何が落ちる?認められる費用一覧で確認できます。
まとめ:副業では「使えないのが標準」と考える
- 家族への給与を経費にする方法は、青色の「専従者給与」と白色の「事業専従者控除(配偶者86万円・その他50万円)」の2つ。
- どちらも「年を通じて6か月超・専ら従事」が前提で、共働き・学生は原則として対象外。
- 青色は届出が必須で、期限は算入しようとする年の3月15日(開業等は2か月以内)。
- 支給すると配偶者控除・扶養控除を失うため、少額支給ではむしろ不利になることがある。
- セルフチェックで4点以下なら、外注費など別の手段を検討する方が現実的。
専従者給与は、要件を満たせば効果の大きい制度ですが、副業段階では「専ら従事」の壁で使えないことの方が多いのが実情です。無理に形だけ整えると否認リスクを背負うことになります。ご自身のケースで判断に迷う場合は、税理士など専門家または所轄の税務署へ必ず確認してください。

